ハバナ(3)〜キューバ総集編〜豊かなキューバの実現を願いつつ

(7月7日)

出発の日、最後までやらかしてくれるRoberto

今日はキューバを発つ日、朝はMuseo del Chocolateでアイスココアを飲み、宿を出ます。

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(Museo del Chocolate(チョコレート博物館)というお店の店内。ここのアイスココアは美味しい上に0.2CUCぐらいと激安なので、おすすめです。他の観光客向けのお店はもう少し値段が上なのですが、なぜこのお店だけこんなに値段設定が低いのでしょうか。よくわかりませんが、美味しいです)

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(青い空、いよいよキューバともお別れです)

さて、最終日にRobertoがまたやらかしてくれました。初日に英語が堪能でおしゃべり好きのタクシードライバーがいたということを書きましたが、私は彼にもう一度会って、いろいろと質問がしたかったので、トリニダーに行く前に、Robertoに彼を手配するようにお願いしていました。「空港から宿に来る時のタクシードライバーをお前知ってるか?英語ができるやつ」「知ってる知ってる」「彼を空港まで行く時に呼んでくれないか?あと、空港に行く前に老人と海の舞台になったコヒマルに寄りたいんだけど」「そうだな、、80CUCだな」「80CUC?それは高いな」「でも、彼は英語もうまいし、エアコンのついたアメリカカーだぞ」「うーん、そうだな。わかった」

80CUCは高いけれども、あのタクシードライバーの見識の深さと英語力は旅行中で随一だったし、エアコンのついた最新車は1時間のチャーターで20CUC〜30CUCかかってもおかしくないのえ、コヒマルを経由して空港に行くというプランは3時間ぐらいかかるかなと考えたので、これぐらいかかってもやむを得ないと判断しました。

さて、トリニダーからハバナに戻ってきた昨日。Robertoは不在で、英語のできない奥さんから確認されます。「タクシー、80CUC、OK?」「OKOK」ちょっとここで、ちゃんと初日のタクシードライバーが呼ばれているのか不安がよぎりますが、彼女は英語ができないのでそんな複雑なことは確認できません

で、いよいよ本日現れたタクシーは、、、あーー!!

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(Roberto、俺が呼んだのはクラシックカーじゃないよ!)

そんなわけで、私たちの80CUCは英語堪能なおじさんへの質問料ではなく、素晴らしいクラシックカーのチャーター代に使われることになりました。この出発の日にもRobertoはいなかったので、Robertoにクレームできず。いつもリビングでDVDを見ているくせに、逃げたか!トリニダーへの出発前に話した時は彼は間違いなくこちらのリクエストを理解していたので、一晩寝たら忘れてしまったのでしょうねえ、、。Roberto、適当だな、、、。初日のタクシードライバーのおじさんに、いっぱい質問したかったんだけどな。。。無念。

ヘミングウェイ博物館で、キューバイズムの駄目押し

さて気をとりなおし、クラシックカーでハバナを出発。まずは老人と海の舞台、コヒマルへ!

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(「老人と海」の舞台になったコヒマル。ヘミングウェイの胸像)

個人的にはヘミングウェイにも老人と海にもそれほど思い入れがないのですが、妻が来たがりまして、、。で、海辺でお金を欲しがる現地のおじさんを退けつつ、(妻が)写真を撮るわけであります。

続いて、クラシックカーはヘミングウェイ博物館へ。

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(ヘミングウェイ博物館)

ここは、ヘミングウェイが住んでいた家で、いまは博物館として公開されています。ヘミングウェイは旅行好きだったようで、アフリカで猟りをした剥製が家の中に飾られていたりして、昔の欧米の富裕層はこんなことをしたんだなあということがわかったりして面白いです。

この博物館では、入場する時に一波乱。車で門の前までぶーんと到着するも、門が開いておらず。中からおばさんが出てきて言うには、「今日は定休日で開いていないのよ。でも、ふたりで30CUC払ってくれたら中を見せられるわよ」。何、休みだと!?(実際には、タクシードライバーのお兄さんが通訳してくれた)ガイドブックには無休と書いてあるけれど。。しかも、30CUC?ガイドブックによるとふたりで10CUCなのに、いくらなんでも高すぎだろ。というわけで拒否すると、ふたりで15CUCに値下げ。ずいぶんあっさり値下げするな、せっかく来たし、15CUCならいいか。というわけで、15CUCを支払い中に入れてもらうと、中にはばっちりと解説員のおじさんが待機していて丁寧に博物館中を案内してくれます。定休日のわりに、ずいぶんと用意が整っているな、と思っていたところ、案内が終わりに近づいたところで突然焦りだすおじさん。「向こうから監視しているやつがいるから、出口まで走るんだ!」え、なになにこれは映画ですか!!???

実際はここまで緊迫していたわけではありませんが、おじさんから監視している人がいるから走って出口まで行くようにと促されたのは事実です。博物館から出た後、タクシードライバーのお兄ちゃんが言うには、「ここはキューバだから、お金を払えばたいがいのことは(休みでも)できるんだよ」

思い返してみると、いったいどこからどこまでが本当で、どこからがお金で解決されているのか、謎すぎます。もしかしたら休みではないのに休みと偽られたのかもしれないし、監視員がいても監視員ともお金で結託していて問題なかったのかもしれないし、、、。最後の最後で、社会主義の真髄を見た気分です。

ちなみに、ハバナ→コヒマル→ヘミングウェイ博物館→空港、というルートの所要時間は2時間程度です。3時間を見込んで80CUCは払い過ぎでしたので、今後同ルートをとる方は参考にしてください。

さようなら、不思議の国キューバ〜キューバのまとめ

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(がらーんとした空港)

そんなわけで、不思議の国キューバともお別れです。行きと同じく、メキシコのInterjetでメキシコシティに帰ります。

ああ、本当にキューバは不思議な国だった。。帰国後に振り返ってみると、2ヶ月の中南米旅行で特に良かったところを3つあげるならば、キューバ、マチュピチュ(ペルー)、ガラパゴスエクアドル)です。キューバは、圧倒的にヒトが面白いです。ツアーでキューバに行っても古い街並みなどは楽しめると思います。しかし、キューバを深く楽しみたいなら、なるべく現地調達の旅をお勧めします。現地の人と触れれば触れるほど、不思議に国キューバを実感できるでしょう(スペイン語ができれば、なおよし!!私たちはできず残念でしたが、、)。

最後に、キューバ総集編としていくつか感じたことをまとめていきます(中南米旅行全体を通じて感じたことも入っていますがご容赦下さい)。

不条理はいつかひっくり返される

2日目に訪れた革命博物館で、世の中の不条理は必ずいつかひっくり返されるのだなと強く思いました。キューバ革命が成功した背景には、アメリカの力を背景にした当時のバティスタ政権の政治があまりにもひどく、キューバ国民の多くが食べるものにも困る状態にあったからです。当時、革命軍に協力することは非常に危険な行為であったと思いますが、失うものがなければ危険であっても不条理を変えて食べるチャンスを得るためにそのような行為に協力する人がおり、その動きが大きな流れになれば最後は不動に思われる体制もひっくり返るのだなと思いました。古今東西、永遠に続いた体制はひとつもありません。

クレイジーな少数の人々が体制をひっくり返す

では、体制をひっくり返すのはどういう人たちかと言うと、それはクレイジーな少数の人々であるわけです。革命博物館の項に書きましたが、わずか12人のゲリラがアメリカの支援を受けたバティスタ体制を倒そうというのは、常識的に考えたら狂気以外の何物でもありません。しかし、変化を許す背景があり、能力のある人々が命懸けでエネルギーを注ぎ、いくつかの偶然と運が味方をすれば、大きな変化は実現するのだと思いました。

仕事が保障されて競争がないと、人は努力しない

さて、そのような経緯で建国された現在の社会主義国キューバですが、残念ながらキューバは本当に競争力のない国です。3日目にラム酒工場で木のこん棒で瓶にフタをする風景に触れましたが、とにかくどこに行ってもキューバの生産性の低さは目に余ります。社会主義では仕事も生産計画も国からあてがわれ、人々は自分で考えて努力をするということはありません。努力をしないから生産性が落ちるのか、そもそも生産性が低くてモノをたくさん作る必要がないから努力をする必要もないのか、努力のなさと生産性の低さは鶏と卵の関係なのかもしれませんが、いずれにせよ競争がない社会では人々は改善の意欲を失い物事の生産性が著しく落ちるということだけは間違いありません。あと、マーケットメカニズムが働かずに資源配分の歪みが大きいということももちろんあります。

競争力がなく外貨を稼げない国は貧しい

競争力がなく生産性が著しく低いということは輸出をして外貨を獲得することができないということです。一方で、人々としてはどうしても欲しいものはあるわけで(さすがに、キューバでも車と石油なしで暮らしましょうという話にはなりませんし、輸入しないと食べられないものもあります)、そうすると外貨窮乏により国も国民も苦労します。それが、キューバの物不足の現実です。(キューバの場合はアメリカによる経済制裁という問題もあり、経済制裁がなければもっと豊かになれるはずという意見もありますが、感覚的には仮に経済制裁が解除されてもキューバが苦しい状態であることに変わりはなさそうです)

話はずいぶんと先に進んでしまうのですが、キューバの後、ペルー、南米の最貧国ボリビアを通った後にチリに入った時、チリは何と豊かな先進国なのだろうと思いました。チリはインフラが整っており何もかもが綺麗です(物価も高いです)。何でチリはこんなに豊かなのだろうと思った時に、ガイドのお姉さんが次のような説明をしていました。「チリには重要な産業が5つあります。鉱業、製紙業、漁業、ワイン、果物・野菜です」チリの銅、サーモン、ワインは日本にいても「あ、確かに」と思うぐらい有名です。日本では紙と果物・野菜は有名ではありませんが、チリでは製紙業が盛んで、果物や野菜も(いわゆる「南国の果物」はとれませんが)縦長な国土を生かしてリンゴやキャベツなどいろいろなものがとれるそうで、南米各国に輸出されたりしているそうです。その時に、豊かな国というのは外貨を持ってこられる国なんだなと非常にシンプルですが強く感じました

当たり前ですが、現代において良い生活をしようと思ったら、多くの国から様々なものを輸入しなければなりません。日本で言えば、石油や小麦などはもちろん、様々な原材料であったりiPhoneであったりも輸入するわけです。これは日本が外貨を稼いでいるからできることで、豊かであるとは外貨を稼ぐということと同じなんだなあと思いました(内需が大きければ稼いだ外貨をレバレッジして経済規模を大きくしやすいと思いますが、本質的には自国内で一次産業から三次産業まですべての資源を賄えないのであれば、資源の足りない分をどれだけ外貨を稼いでカバーできるかが国の豊かさのバロメータになると思います)。

キューバで社会主義が今も成り立っているのは、いくつかの特殊条件による

貧しいとはいえ、キューバでは社会主義が成り立っています。しかし、キューバで社会主義が今も成り立っているのにはいくつか背景があると思いました。

まず、アメリカが革命前に大きく投資をしていたこと。キューバでは、革命前に投資された重要な社会インフラ(例えば、初日にタクシーのおじさんが説明してくれたホテルやトンネルなど)を今でも利用しています。観光客に人気のクラシックカーも、もとをただせばアメリカが革命前に持ち込んで残していったものです。革命後のキューバには大規模な社会インフラを自前で整えて行く力はありませんので、これらの遺産があることはキューバにとってとても幸運だと言えます。

第二に、今でもキューバを支えてくれる友好国があること。昔はソ連、今でもベネズエラがキューバ経済を助けており、ソ連の支援が充実していた時代は今と比べても良い時代だったそうです。また今日においても、(先日まで反米的なチャベスが大統領をしていた)ベネズエラは非常に安価にキューバに石油を融通しているといいます。

第三に、気候が温暖で恵まれていること。温暖なら(極端な話)肌着一枚でも良いわけで、寒さ対策をしないと死んでしまう北国とは違います。また、果物が豊富にとれるので、バリエーションは少ないかもしれませんが工夫すれば飢えるということもなさそうです。

第四に、キューバの人々が陽気であること。これは案外重要だと思うのですが、キューバの人々は陽気で、音楽とダンスを愛し、お金がなくても楽しく生きて行くことを知っている人たち、、のような気がします。そうでない国がどこにあるのかと言われると困るのですが、感覚的にはこのような国民性は貧しくても楽しさを見出して何とかやっていくという意味でプラスに働いているような気がします。また、革命前のあまりにも酷い記憶が今の貧しさを我慢させる方向に働いているという要素もあるかもしれません。

裏を返せば、非効率でもやっていくには、これだけいろいろな条件が揃わないといけないとも言えます。これが社会主義の現実なのだなと思わされました。

あと、アメリカは今でもキューバに対して経済制裁を行っていますが、キューバは貧しく冷戦も終わった今アメリカに本気で楯突こうという考えもない国で、経済制裁の継続は非常に大人げない対応だと思います。キューバの人や旅行中にフロリダ在住のアメリカ人に聞いた話では、フロリダには革命前はキューバで財を成していたが革命ですべてを没収された人、また亡命キューバ人が多くいるそうで、彼らがキューバとの国交樹立や経済制裁の解除に強く反対しておりアメリカの政界においても彼らが一定の影響力を保持しているため、アメリカはキューバとの関係改善に乗り出せないのだとか。一部の人は、今でも革命により没収された資産の返還を求めているそうです。それは歴史的な背景を考えたら無理な要求(そもそも革命前のアメリカとキューバの関係が現代の感覚からしたらおかしい)だと思いますが、そのような事情で、今でもアメリカはキューバと大変仲が悪いのだそうです。

社会主義と市場経済の「共存」は難しい。キューバに行くなら早めがお勧め

さて、そんなキューバでは、フィデル・カストロの弟のラウル・カストロにより、緩やかに市場経済の導入が図られています。たとえば、こちらのEconomistの記事(有料)によれば、農業では生産量に裁量を持つ農家が現れはじめ、企業においても利益の一部を投資や従業員への還元に利用できるようになったり、管理者が裁量を持てるようになるといいます。一方で記事では、そのような市場化の進展により「失業」する可能性がある労働者から反対の声が上がっていることや、中央官僚には依然として計画経済の発想が強いことを指摘しています。

もうひとつ、記事が指摘しているのはCUCとCUPの二重経済の問題です(1日目の記事で、お金の項や丘の上のレストランの項で触れました)。観光客が使うCUCはドルと等価であり、国内で主に流通するCUPはCUCの24分の1の価値しかありません。この二重貨幣により、キューバ政府は国内で流通する「安価な物」(ここのカラクリを私はよく理解していませんが、理屈から想像すると、自給自足できるものと国家の政策上どうしても安く国民に提供したい限られたものが、「安価な物」に該当すると思われます)と、購入に外貨が必要となる「高級品」の流通を分けて管理しようとしていると考えられます。貧しいキューバで物の流れをコントロールし社会主義を維持しようとするためにとられている貨幣政策だと言えるでしょう。

しかし、私が目にした限りでもこの二重貨幣は大きな矛盾を社会に生んでいます。外国人観光客はCUCで対価を支払うので、観光客に接する人ばかりが儲かり、それ以外の人と格差が広がっているのです。キューバでは、国に雇われて単純労働に従事する人も、国の病院で働く医者も、大きく給料は変わらないそうですが、観光業に従事する人は医者を大きく上回る収入を得ることが可能です。


Cuba 2012 (BBC Documentary) - YouTube

このBBCのドキュメンタリーは、キューバ経済の問題を考える上で参考になります。途中で、医者を辞めて何でも売ります屋?を始める男性が出てきます。観光業や農業を起点にキューバでは少しずつ市場経済が広まっており、こういう人たちを相手に商売をやる方が医者よりもずっと儲かるのです。元医者のお兄さんがやっている商売は難しいことには見えず、職業に貴賎なしとはいえ、私の感覚からすると「それは頭脳という人的資本の配分としていいのか?」と思います。さらに番組の後半で、6CUCのハンバーガーを売るお店が出てきます、お店はお客さんでいっぱいです。しかし、6CUCは144CUPであり、Economistの記事によると国に雇われている人の平均月収は466CUPということですから、このハンバーガーは平均的な社会主義の世界に生きる人の月収の1/3にあたるわけです。一方にハンバーガー3個分の月給で生きる人たちがおり、一方でそのハンバーガーを喜んで食べる人たちがいる。これは、歪み以外の何物でもありません(私が初日に丘のレストランで払った6CUCのチップがあれば、お店の人はこのハンバーガーを1個食べられますね)。

キューバが豊かになろうとすれば、またベネズエラの援助が途絶えた場合に経済を独り立ちさせる必要を考えれば、市場経済の導入を進めることは避けられないと思います。しかし、市場経済の導入を進めることは、(すでに農業と観光業で得られた外貨で歪みが生じているのに見られるように)格差が生じることを認めることであり、貧しい人を社会保障で抱えきれなくなれば明確な貧困層の出現を許すことにつながります。貧困層の出現は乞食を生み、マーケットの成立は、盗品であろうと何であろうとお金に換えようという人々が現れることを意味するでしょう。したがって、国全体としては貧しいけれどもなぜか安全で陽気な国キューバ、は、変化が進むにつれて少し豊かだけどちょっと危なくて緊張感のある国になってしまうことは(方向性としては)避けられないと思います。

国家としては経済状況を好転させるために市場経済を進めるしかないことは間違いありません。その点は経済学的には議論の余地もないように思います。しかし、一観光客として非常に勝手に言わせていただくと、「ラテンな社会主義国キューバ」の面影が失われていくことは残念です。もしもこれをお読みのあなたがキューバに関心があるならば、できるだけ早くキューバを訪れることをお勧めします。キューバにおいて市場経済の導入により、社会の格差が拡大していくことはあっても、縮小することはありません。キューバに興味のあるあなた、今すぐキューバに行きましょう!(そして、キューバに外貨を落としましょう!)

また蛇足ですが、旅行中にクラシックカー同士の事故を見ました(車は二台とも大破)。クラシックカーが減ることはあっても増えることはありませんので、クラシックカー好きの方も早くキューバに旅行した方が良さそうです。

社会主義で人々は幸せか〜答えはないが、私は「社会主義には夢がない」と思う

世界には古今東西いろいろな価値観があります。例えば、(確か)古代アステカ帝国では生け贄になることは名誉で喜ばしいことだったそうですし、キューバのように単純労働者も医者も給料がほぼ同じで平等が良いという考え方だってあるわけです。私は中南米旅行を通じて、何を良しと思うか、何を幸せと感じるか、価値観は社会によって異なり、それはその社会の構成員が選ぶべきだと思う(異なる価値観を持つ他の社会の人間がどうこう強く言うべきものではない)けれども、経済的には社会システムには優劣があり、長い目で見れば経済的に劣位な社会システムは経済発展において大きく遅れをとり持続することが難しいと感じました。これは大学時代にハイエクで社会システムに関する適者生存的な考え方を学んでから考えていたことですが、今回いろいろな社会を目の当たりに見て、とても腹に落ちたことです。

社会主義が経済的には資本主義に劣位したシステムであることはソ連の崩壊を見ても明らかですが、社会主義にも良い点はあります。キューバで感心したのは、乞食がいないことです(何かと理由をつけてお金を観光客から得ようとする人はいますが、ただ「お金をくれ」と家なく道ばたで言う乞食を私は見ませんでした)。配給のみで生活をするのはかなり厳しいし、家もものによっては崩れそうなひどいものだとは言いますが(BBCのドキュメンタリーにもひどい家が出てきます)、それでも最低限の生活を政府が保障し、教育と医療を多くの国民が受けられるという点も、キューバの社会主義の良い点だと思います。

では、トータルで見た時に、キューバの社会主義は人々を幸せにしているのか。ここに答えはありませんし、人によって受け止め方は違うと思います(この質問を初日のタクシードライバーのオヤジにしたかったのですが、最終日に現れたタクシードライバーが別人だったのは上に書いた通りで、今でも残念!)。しかし、私が人々と日常会話をして受けた印象や、以下のような先達の発言を読んでいくと、やっぱり職業選択や言論の自由がない国というのは、私には「良い国!」とは言えないと感じました

キューバ人は幸せなのか

キューバの生活

キューバには観光客はどんどん入ってきます。彼らがキューバで美味しい物を食べ、素敵な服を来て、外の世界のことを話していく。その横に、自分で何かを変えていくのが難しい立場でいたら、僕だったらやりきれない気持ちになるなと思います。それって、「夢がない」と私は思うんですね。革命前の厳しい時代を経た人々からしたら、夢よりも最低限の生活を維持できる今の方が良いでしょうか。ここに答えはないのですが、スペイン語が喋れるようになったら、いつかキューバの人と語らってみたいものです。いつスペイン語が喋れるようになるのか?、、、あの世に行ってからかもしれませんけど、、、。

マーケットがない世界では、信用が重要

残りの感じたことはぽつぽつと。マーケットが未発達な国での信用の大切さは、4日目に書いたとおりです。この、「この人大丈夫なのかな?」という疑問の連鎖は、面白いですよ。

多少汚くても、最低限のインフラが整っていれば立派に生活はできる。人は、どんな環境でも懸命に生きる

キューバのインフラは全般的にしょぼかった。まあでも、インターネットがなくたって、クーラーがなくたって、別にどうってことないといえばないんですね。衛生的で、水と栄養がとれれば、まあ生きて行けるんだなということがよくわかりました。これは南米旅行中も度々感じたことですが。

「三種の神器」は人類共通

日本で三種の神器は、冷蔵庫、洗濯機、テレビですが、これは世界共通だと思います。

まず、写真はとっていませんが、Robertoの家には冷蔵庫も洗濯機もテレビもあります。これは長旅をしていてもわかるところで、生ものを保存できる冷蔵庫というのは「食」をつなぎクオリティをあげるためにとても重要。あと、洗濯を手でやり続けるのは本当に大変(手に穴があいて治すのに苦労しました)で、この重労働から解放してくれる洗濯機というのは本当に素晴らしいものです。南米には安価な洗濯屋があり、洗濯のしすぎで手に穴があいて洗濯屋の便利さに気づいてからは、これをなるべく利用するようにしました。

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(トリニダーで泊めてもらったお宅のキッチン。冷蔵庫も、電子レンジもあります。なお、このお宅は相当裕福だと思います)

情報、娯楽とコミュニケーションへの渇望は経済の発展段階に関係なく極めて強い

上から続いて、あとテレビ。どんなにボロい家でも、結構テレビはあります。お金がある人は、そこでテレビ放送ではなくてDVDを見ています。さらに、キューバで少しでもお金のある人は、こぞって携帯電話を持っています。

この、情報、娯楽、コミュニケーションへの渇望は南米を通じてどこでも感じたことです。メキシコのスラムには、ディッシュ(ソフトバンクとスプリントの買収を争った衛星放送の会社)のラボナアンテナが林立しています。山奥のド田舎のマチュピチュのインターネット屋で、パソコンの画面を見つめる若者の8割はFacebookを開いていました(残りの2割はネットゲーム)。そして、こんなにお金のないキューバでも至るところに携帯電話があります。

情報、娯楽、コミュニケーション、これは三種の神器の次(あるいは、環境によっては三種の神器よりも優先順位が高いかも?)に来る人間の本源的な欲求なのだと強く理解しました。

キューバ音楽は素晴らしい

最後に、キューバ音楽は素晴らしい。最近、私はBGMとしてキューバ音楽を常に流しており、そのマンネリぶりを妻からうざがられています。

豊かなキューバの実現を願って

キューバ、本当に学ぶの多い国でした。ありがとう、キューバ。いつか、私たちがキューバで食事をした素敵なレストランで、多くのキューバの人々が食事を楽しめるようになることを切に願います。

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ハバナにある、支倉六右衛門常長の像。彼は、1614年に日本人としてはじめてキューバの地を踏んだそうです。この像から、常長の出身地である仙台までの距離は11,850km。いつか、キューバの人が、遠い日本のワサビや醤油を楽しんでくれたらいいなと思います。ワサビも醤油も、Roberto知らなかったからね)

この後はメキシコシティで一泊休憩し、いよいよ南米に突入。ペルーのイキトス(アマゾン)を目指します!