トリニダー〜どこでも興味深いキューバの人たち

(7月5日)

バスで世界遺産の古都トリニダーを目指す!

タイトルを「どこでも興味深いキューバの人たち」としましたが、キューバで一番思い出に残っているのは人です。本当にどこに行っても、クセの強い、それでいて憎めない明るい人々ばかりで、記憶に残る人たちばかりです。これはキューバ本来のラテンな文化と社会主義の社会情勢が組合わさった結果だと思います。

さて、今日はハバナの南東350kmにある世界遺産の古都トリニダーをビアスールという会社のバスで目指します。一人、片道25CUC。旅のアレンジは、ハバナのセントラル公園に面したParque Centralという五つ星ホテルの中にある、ツアーデスクで行いました。ここには、Habana Tur(ハバナツール)と Transtur(トランスツール)という国営の大手旅行会社二つがまとめてデスクを構えており便利(このツアーデスクは、私たちの滞在中に、このホテルから少し裏にある綺麗なオフィスビルに場所を移転しました)で、英語のできる髪を真っ赤に染めた親切(かつ服装が派手)なおばちゃんがいます。

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(五つ星ホテルParque Central。写真は暗いですが、クーラーが効いた明るく開放的なロビーはさすがの五つ星ホテルです。一泊200ドル以上し、私たちが泊まっている安宿とは違います)

ただ、このバスに決めるまでは結構手こずりました。はじめは、私たちはツアーでトリニダーに行くつもりでした。まず、7月2日。到着日の夕方におばちゃんのところに行きトリニダー行きのツアーをリクエストすると、トリニダー行きのツアーはひとり129CUCで、トリニダー、ゲバラの霊廟があるサンタクルスの他に二都市をまわるものである、ただし、ツアーの出発は週3日に限られており、最低催行人数8人に満たなければ開催されない、そして、明日(7月3日)に出発するツアーがあるがすでにそれは閉め切られていると説明されます。意外にハードルが高いではないか、トリニダー。そして、あさって(7月4日)に出発するツアーがあるが、まだ申し込みが私たち2人を除いて2人しかおらず、開催するかわからないので、明日の午後にもう一度確認に来てねと言われます。他にもツアーがあるのではないかと思い、他のツアーデスクや地球の歩き方に掲載されている日本語の通じる旅行会社にも連絡してみたのですが、結局トリニダー行きのツアーは、赤毛のおばちゃんが扱っているツアー以外にない(だろう)ことがわかりました(どこも、代理店が別なだけで、行き着くツアー催行会社は同じ)。そのようなわけで、他のツアーを探す案は断念し、おばちゃん一本で行きます。

次の日(7月3日)。午後、おばちゃんのデスクに行くと申し込みは増えていないということ(!)。8時までデスクはやっているから夕方また来てと言われたので、夜7時すぎにまたおばちゃんのところに行くも、申し込み不足のためツアーは催行されないと言われました。ここで、トリニダー行きに黄信号がともりますが、おばちゃんが親切にハバナからトリニダーまで行く観光客向けのバスが毎日出ているということを教えてくれます。これは出発の2日前までに申し込みが必要ということなので、その場で7月5日出発のバスを予約。バスは、Parque Centralの前から出発し、私たちの宿はParque Centralから近かったので、バス乗り場までは朝歩いて行くことができます。

7月7日にはハバナからメキシコに戻る旅程なので、トリニダーに一泊し、7月6日にはハバナに戻ってこなければなりません。しかし、ハバナで帰りのバスは予約できないということ。「トリニダーの観光案内所に行けばチケットを帰るわよ」。でも、私たちがトリニダーに着くのは7月5日、翌日7月6日のバスのチケットは買えないんじゃないの?「原則2日前に申し込まないといけないけど、行って話をすれば大丈夫」。非常にテキトーな対応ですが、いざとなったらタクシーで帰ってくればいいやと腹をくくり、このプランで決定です。

そんなわけでバスでトリニダーへ向けて出発。ハイウェイや田舎道ならを走り約6時間の道のりです。運転手の他に、相棒役?も同乗します。途中で運転手がきっちりと休息をとるのは前日と同じです。

喋りまくる運転手と相棒

このバスで鮮明に覚えているのが、この運行役の運転手と相棒です。なぜなら、バスが朝7時に出発してから約6時間、このふたりは絶えることなく大声でお喋りをし続けたからです。本当に、そんなに話すことたくさんあるのというぐらい絶え間なく喋り続けます。日本では大声で話続ける運転手など考えられませんが、でもこれも示唆がありますね。バスの運転で最も大事なことは安全、大声で話し続ければ運転手も居眠りしないでしょうからバスは安全です。それに、気の合う二人で喋り続ければ、本人たちも長い運転中楽しいでしょうから、仕事も楽しくなって一石二鳥。乗客からしても、別にそういうもんだと思えば、運転手がおしゃべりしていても気にならないんじゃないでしょうか。このスタンダードに慣れると、黙々が基本の日本の運転の方に違和感を感じてきます

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(左の運転手は、時にはハンドルから両手を離し、身振り手振りを交えて大声で話しまくる。高速道路の休憩所で休憩をした時も、トイレから戻って来た瞬間にふたりはおしゃべりを再開する。「この間、うちのとなりのロドリゲスが民宿を始めたんだぜ」「ほう」「で、観光客が来る場所じゃないから客が入らなくて税金を払うのが大変だって話だ!」などと会話をしていると妄想。あくまで妄想です)

トリニダーで宿探し〜信用の大切さ

さて、午後無事にトリニダーに到着します。ここから、宿探しで一波乱です。

日本やアメリカでは、宿やレストランが良いかどうかはインターネットで過去の訪問者の評価を見て確認できます。インターネットが、訪問者のコメントという過去の評価と値段で効率的なマーケットを作り出しているわけです。特に旅行者はその国/街を二度と訪れないことも多いですから、このマーケットがなかったら宿は一回きりの顧客をだましてぼったくることもままあるのではないかと思います。しかし、マーケットがあると、ぼったくりやひどいサービスは後から口コミという形でその宿の将来に悪影響を与えるので、宿も一回きりの顧客にきちんとサービスするようになります。それが、日本やアメリカの現在です。

しかし、キューバにはインターネットがなく、相手が信用できるかどうかは、ガイドブックに載っているか、あるいは信用できる人が薦めるかどうかで判断するしかありません。信用できるガイドブックに載っている宿だから、あるいは自分が信用するAさんが信用するBさんの宿だから、私もこの宿を信用していいだろうというわけです。マーケットが存在しない世界では信用がモノを言う、これはキューバでの大きな学びのひとつです。途上国では人脈が大事、とよく言われますが、その裏にはこの原理原則があるような気がします。

話をトリニダーの宿に戻します。現地で宿を探すと相手が信用できるかどうかわからないのでどうしようかなと思っていたところ、ハバナで泊まっていたRobertoが、(やった、商売ができるぞとばかりに)彼の友人がトリニダーでやっている宿に泊まれと薦めるので予約を頼みました。ところが、このRobertoが適当すぎます。「その友達のやっている宿はなんと言う名前なんだ?住所は?」「・・・バスが着いたら、友達はおまえの名前を持って待っているから大丈夫だ!」「(友達の宿の名前知らないんじゃないか?)・・・わかった、僕たちはビアスールという会社のバスを使っていくからな。ローカルの人が使うバスじゃないぞ」「ビアスール?・・・わかった!」おいおい、本当に大丈夫なのかRoberto。そもそも、そいつ本当にお前の友達か?

で、現地に着いたら、案の定私の名前を掲げて待っている人などいません。仕方がないので、客寄せの人混みをかき分け、メインの広場近くにあるカフェでとりあえず一休み、そこからRobertoに友人の宿の名前を聞くべく、電話を探します。英語が少しだけできる土産物屋の女性を見つけ、彼女に頼んで公衆電話をRobertoの宿にかけますが、残念ながらRobertoは不在でいたのは英語の全くできない彼の奥さん!コミュニケーションを試みますが、私には奥さんのスペイン語は理解できず、土産物屋の女性に事情を英語で説明して電話の仲介を頼むも、その女性もあまり私の英語をわかってくれず、結局何もわからないまま電話トライは失敗。

そんなわけで、Robertoの友人の宿を探すのが面倒になり、結局バスを降りた後に勧誘された宿のひとつでこの日は宿をとることにしました。

トリニダーで泊まった宿のお姉さんは生粋の商売人

トリニダーの中心から歩いてすぐの今回の宿の部屋はこんな感じで、窓がたくさんあって風がとおり、扇風機と冷蔵庫もある、何とも贅沢な部屋。今はオフシーズらしく、一晩たったの15CUCでした。(家の中の写真も後で掲載しているので宿の名前は載せませんが、もしも宿の名前を知りたい方がいらっしゃたらご質問いただいたらお答えします)

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(いまは15CUCですが、ハイシーズンは30CUCまで値上げするらしい)

トリニダーでバスを降りると、20人ぐらいの宿やタクシーの売り込みがやってきますが、売り込みの中のひとりが今回の宿のお姉さん。このお姉さんは、生粋の商売人で、人を不快にせずに効果的に売り込みをする方法をよく心得ています。彼女の売り込みテクニックを書き出すと、こんな感じ。

まずまず英語ができて愛想がいい

会話ができて雰囲気が良いのは営業の第一歩。

自分の部屋の写真を見せる

自分の宿の写真を見せて、「うちの宿はこんなにしっかりしているんだよ!」ということをアピール。

過去の滞在者の口コミを見せる

写真なら他の宿の売り込みも見せる。しかし、彼女はノートにマジックで日本語で大きく書かれた過去の日本人の感想を掲げ、「ほら、あなたと同じ日本人が泊まって、うちを良いと言っているよ!」とアピールしていました。感想には、「シャワーが水しか出なかった」とちょっとネガティブなことも書いてありましたが(私たちが泊まった時もシャワーはかなりぬるめだったような気がします)、その日本人が彼女の宿にとても満足していることが文章から伝わってきて、これが泊まる決め手になりました。

常に顧客の立場に立った言い方で、押し付けない

私が「もう今日の宿はとってあるんだよね」と言って断った時、彼女は「わかったけど、何かの事情で宿が必要になったら是非うちに来てね」という言い方で売り込んできました。売り込みに変わりはないのですが、こちらの事情を汲む姿勢はすごく好感が持てました。

それでも、営業しないと売れないのでしつこさは一流!

バスターミナルで売り込むだけでなく、近くの広場に移動した私たちにもしっかりついてきて最後まで売り込みを継続!でも、広場までついてきてそこで日本人の感想をアピールできたから顧客を獲得できたわけで、やっぱり売り込みは多少相手から煙たがられても頑張って営業しないといけないんだなと思いました。

さらに宿に入った後、彼女からレースのテーブルクロスなど彼女お手製のお土産も買いました。ここでも、商売人魂を発揮する彼女。

個人的な関係があると断りにくいことをよく知っている

宿に入ってひとしきり会話をして、個人的な関係ができた後に、「私が作ったお土産があるから、後で見てね」と言われると相手が断りにくいことをよく知っています。見るつもりだったものの「後でね」と言っていたら、3、4回笑顔で同じセリフでアピールされ、買う気がないお客さんもここまで笑顔で何回も迫られると見ざるを得なくなると想像。

お得な理由を(もっともらしく)ロジカルに説明

自分が外のマーケットにお土産を売りに行くと、空振りが多いからその営業にかかったコストも値段に載せないといけないけど、宿でだけ売れば営業コストがかからない、だから外のマーケットで買うよりも安いのよ!とロジカルに説明。うんうんそうかもと思わされます。

自分の体験談や感情を顧客に伝えて共感を得る

レースの編み物やテーブルクロスは大きさや複雑さによって値段が違うのですが、編み物とテーブルクロスではどう難しさが違うのか、大きいとなぜ作るのが大変なのかを、自分の経験に基づいて説明してくれます。彼女が作っている姿が目に浮かぶので、「確かにそれだとこっちの方が大変で値段が高くなるのもわかるな〜」と思ってしまいます。

ちなみにお土産を買った翌日に確認したところ、これらのお土産は、彼女の説明とは逆にマーケット価格よりも少し高かった(!)のですが、そんなに憎めないところが、彼女の商売上手なところです。また、本当に彼女が作っているのかは、わからないですね(作っている雰囲気はしましたが)。

ハバナで宿のロケーションが良いことに胡座を書いてテキトーな運営をしているRoberto(実際、彼は一日の八割をリビングでDVDを見て過ごしているような気がします)は、いつか資本主義が浸透してキューバで宿の競争が激しくなったら軽く駆逐されてしまうでしょうが、このトリニダーの商売人姉さんは間違いなく一企業を築いて成功するでしょう(Robertoは憎めないいいヤツではあるんですが、それと商売は別)。こんなキューバの片田舎で、営業の勉強ができるとは思いませんでした。

彼女に宿のことを聞いてみると、民宿を開いた場合、一部屋につき月30CUCの税金を政府に納める必要があるそうです。「インターネットがあれば、そこで営業をすることができる。でも、自分にはインターネットがない(注:キューバでは国民がインターネットを使うのはかなり難しい)。だから、自分はバスが着いたらそこに営業をしに行くんだ。ロンリープラネット(旅行ガイドブック)ばかり見て、こちらが声をかけてもまったく見向いてくれない人もいるけれど、でも私には売り込みに行くしか営業のやり方がないからね。インターネットが私も使えたらなあ」とのこと。お姉さんのガッツには敬服です。

のどかで美しいトリニダーの街並

トリニダーは植民地時代の街並がそのまま残っている世界遺産で、とても美しい街です。何百年も前の植民地時代の人々の生活を想像するのは少し難しいことですが、この街並が16世紀や17世紀にすでにあったわけですから、中世の街は現代と比べても十分に立派で美しく充実していたのだなと思わされます。もちろん当時は、電気や水などは通っていなくおそらく糞尿も道に撒き散らしていたのでしょうから、昼間で道が綺麗ならという留保付きですが。

ハバナから少し離れており、街もそれほど大きくはありませんが、美しくのどかで訪れる価値のある良い場所だと思います。街を探索した後、この日は土産物市場や革命博物館などに寄って、宿に帰りました。

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(トリニダーの中心。もちろん世界遺産であります)

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(カンチャンチャラという有名なお酒のお店。すっきりとした強いサトウキビのお酒を蜂蜜と一緒に飲みます。かなり美味しいです)

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(宿の屋上から眺めるトリニダーの街並み。とてものどかで落ち着きます)

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(鉄格子の隙間から何かを買うおじさん。ビール?)

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(夕食は、宿で食べた見事なロブスターのグリル。主食と副菜もいろいろついて、たったの12CUC!!!新鮮で、美味しいロブスターでした。トリニダーは近くでロブスターがとれるらしいので、是非試してみてください)

明日は、ゲバラの霊廟があるサンタクララに寄り、ハバナに帰ります。